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小説『君だけの甲子園』(上)

「久しぶりだな、高山」
老監督の福田は、高山哲に声をかけた。

冬の寒いグランドの前で、二人きりの対面であった。
 高山は、聖橋ニ高のOBで、高三の夏に、甲子園も経験している。
甲子園では、春の覇者である三田商業に完封勝ちした。エースであった高山は、その後、大学に進み、東都大学野球でも活躍した。
ドラフトの指名を受けたが、プロには行かず、一人渡米した。チームメイトには、謎の渡米だった。そんな高山哲が、30年ぶりに、母校に英語科の講師として帰って来たのだ。
高山は、恩師の福田に、
「福田監督、また、おせわになります。」と短く挨拶した。

高山哲は、高校3年夏、甲子園にエースとし活躍した。東京大会と、春の覇者の三田商業のエース平田と投げ合い、連続完封する。 聖橋ニ高に高山あり、とマスコミが書き立てた。
しかし、高山は甲子園の勝利から、徐々に、野球への情熱がなくなっていく、自分を感じていた。大学野球でも、東都大学リーグで優勝にも貢献した。プロも注目する。しかし、高山の心のなかは、野球そのものを客観視して、醒めていた。 その後、高山の人生の新たな方向決定づける出来事が起こった。

高山は、大学野球生活を終えた年の出来事が一大転機となる。
知人の紹介で、百貨店の仕事のアルバイトをした。
短期のアルバイトだけれど、野球とは違った神経を使うようで、楽しく衣料品売り場のアシスタントをつとめる。
その時、外国人の夫妻に、高山は声をかけられた。
「エクスキューズミー・〜」と高山に、何か 尋ねてくる。
何度か、その外国人夫妻は、質問を繰り返した。しかし、高山は、英語の意味がわからない。
売り場を離れ、そして、すぐに、通訳をよんだ。

通訳はニッコリ笑みを浮かべ答えた。

「トイレは真っ直ぐいって右側の角です」と英語で伝えた。
外国人夫妻は、高山にトイレの場所がどこかを聞いていたのだ。
高山は、ショックだった。中高大学とすくなからずも、英語には,それなりに自信があった。それなのに、あの外国人夫妻の質問の意味がわからなかったこと。
野球で負けるより、高山には、ジーンとこたえた。

「トイレはどこですか?」海外夫妻の短いフレーズを高山は聞き取れなかった。
その瞬間、高山の心のそこにあったある価値感が噴出してきた。

「アメリカに行きたい」
日本だけの価値観、野球だけの価値観ではない何かを感じてみたい。

進路は、周囲も不可解なノンブロかプロかという選択肢ではない、第三の道を高山は選んだ。

高山は、ロサンゼルスに在住する東都大学リーグの先輩、正田秋雄に手紙を書いた。

お金は無かったが、一人て゛アメリカ・ロサンゼルスの飛行機に乗り飛び立った。

「空は 果てしないのか」
高山は、ロサンゼルスに向かう飛行機のなかでつぶやいた。
日本を初めて離れた。
今まで、甲子園、そして神宮球場と学生野球の聖地と呼ばれる場所でプレイしてきた。
このまま、プロかノンブロの道もあった。
ただ高山には、野球以外の世界を、今感じてみたい願望があった。
なぜ、それが、今でなくては、いけないのか。
贅沢すぎないか、周囲も困惑した。
「アメリカに行けば何かをつかめる」

高山には、根拠のない確信だけが頼りだった。

「高山、お前、野球やってること、凄いと思ってるんじゃない・・」
大学のクラスの親友古島博文が高山に声をかけた。
古島は、授業とアルバイトの両立、学校の休みの間は、世界を旅する学生だった。
「世界を旅してみて、高山が野球やることで変な優越感もつのって、おかしいと俺は感じる」

「へんな優越感?」

「そう、野球やってるて特別なことなんかあるわけないじゃん」

高山には、古島の真意を理解するのに、すこしだけ時間がかかった。

ロサンゼルス空港で、東都大学リーグの先輩である正田秋雄と待ち合わせた。

空港のロビーで、正田は、ひとりで迎えてくれた。

 正田だけが、今回の一見、無謀とも言える高山の挑戦を唯一認めてくれた。

「哲、 元気そうだな 」

「 ようやく、ロサンゼルスに来れました」

空港内のレストランで、モーニングを食べた。

時差ぼけは、気にならなかった。

 正田から、今後の生活のためのアドバイスを受けた。

「アメリカで、生きるには」

 高山の、新たな挑戦の一歩が始った。

    

「高山、今、アメリカで、何を、どうしたいんだ」

単刀直入に、正田は高山にたずねた。

高山は、深く呼吸をしながり、言葉を選ぶように語りだした。

「正田先輩、自分は日本にいて、そして、驚いたことがあります。。
アメリカという国には、履歴書に、生年月日を書く欄がない。
仕事に定年もない。

そんな
実力の年齢が問われ国で、自分は勝負したいと思ったんです。」

サウスポーの高山は、左手で髪をかきわけながら、先輩の正田に、本心を打ち明けた。

「高山、カージナルスの入団テストを受けてみないか?」
大リーグのカージナルス広報担当を務める正田が、高山に語りかけた。

「自分がですか?」

「そうだ。段取りは、俺がする。今まで、積み上げてきたものを、思いっきり試してごらん。」

高山の瞳をじっと見ながら、正田は ゆっくりと伝えた。

高山は、自分の左の握りこぶしを見ながら、自分の気持ちを確かめるのだった。(

高山は、正田の紹介で、カリフォルニア州立大学でトレーニングを開始した。

来るべき、カージナルスの入団テストを受けるためだ。

カリフォルニア州立大のベースボールククラブの練習に参加した。

日本と違い、ウォーミングアップも、バラバラにに行う。

いちばん驚いたのは、練習時間の短さだった。

 高山は、日本で、やらされている練習がしみついているのを感じた。

アメリカで真っ先に感じたのは、自ら主体的に行う野球だった。

アメリカとベースボールの狭間で、高山はもういちど、野球への情熱が蘇ってきた。

カリフォルニア州立大学のベースボールクラブの学生は、練習の合間に本を読んでいた。

一人の学生は、スポーツ心理学の本を読んでいた。

「スポーツ心理学?」

「なに、それっ!?」

高山哲は、いままで、日本で根性主義の野球をやったことしかなかった。

 グランドで実践する以上に、このキャンバスでスポーツ心理学を学んでみたいという

衝動に駆られた。

「痛いっ」

カージナルスの入団テストの、最終テストで高山は燃え尽きた。

大学野球の秋のリーグ戦で痛めた、左肘が痛んだ。

大リーグに入団できなかったものの、高山には悔いはなかった。

ここまで取り計らってくれた カージナルスの広報担当の正田に

「正田先輩、ありがとうございました」

と一言伝えた。

「これから、どうする?」

と正田は、高山の目を見ながら 声をかけた。

「アメリカに残って、学びたいものを見つけたんです」

「 学びたいもの?」

「そうです!」

高山の目は、敗者の目ではなかった。

アメリカの地で、生き残るための高山の新たな戦いが始まった。

 仕事を探すにも、英語が出来ない高山を、採用してくれる会社は見つからなかった。

アメリカ全土も、不景気の波のおそわれていた。

そんな時、< 皿洗い募集 >

小さなレストランの入り口に張ってあった、小さなポスターを、高山は見つけた。

マスターに頼み、高山は、レストランの皿洗いとして、採用された。

「 皿洗いができる」

アメリカの地で、高山の皿洗いの仕事が始まった。

アメリカの社会では、最底辺の仕事かもしれない。

しかし、高山は、皿洗いの仕事を通じて、自分に自信をつけていった。

どうやったら、効率よく、きれいに洗えるか、ふき取れるか、考えながら仕事をしていった。

レストランのマスターに気に入ってもらい、様々な配慮をしてもらった。

2年後、高山は ロサンゼルス州立大学に編入した。

そこで、スポーツ心理学を専攻し、学んだ。

高山は、皿洗いの仕事と、スポーツ心理学の授業の両立に挑戦しぬいた。

研究論文 「スピリットと気について」は、全米に大学で、とても高い評価を受けた。

 欧米の科学に基づいたメンタルのトレーニングと、東洋の気を融合させたメソッドを、高山は

論文で書き上げた。

 皿洗いをしながら、高山は論文を書き上げた。

高山にとって、この出来事は、日本で経験した野球、なかんずく甲子園の体験に劣らない、

いやそれ以上の原点になる出来事だった。

その高山が、24年ぶりに、日本に帰国する。

そして、母校 聖橋二高の 英語の講師として戻ってきた。

さらに、臨時野球部のコーチ就任する。

内野の涌井には、

「なぜ、好プレーができたのか、その成功要因を、常に深く考えるクセが大事だぞ。

失敗エラーの反省よりも、負け試合の反省会よりも、成功の反省会、なぜ成功したかを考えるんだ。

負け試合の中にでも、これからに繋がるブラスの要因が必ずある。

成功イメージだけの成功の反省日誌は 、成功を一過性の成功でなく、再現性のある成功へと進化させることが出来るんだ」

高山は、選手ひとり、ひとりに、『成功事例だけを書く〜成功の反省会日誌』を全員にすすめたが、強制はしなかった。あくまで選手の自発的行動を大切にした。

「なぜ右利きなんだ?」

高山は、控え捕手の相田に声をかけた。

「小さいころから、右腕使っているんで・・・」

「そうだ、相田君が右利きなのは、小さなころからの習慣、クセなんだ。

ところで、考え方にもクセがでてくる 」

「 考え方も、クセでえすか?」

「そうなんだ。自分の考え方も、クセになっている。

物事の事実はひとつであっても、解釈は2つある。

プラスにとるか、マイナスにみるか。

自然とクセになって、マイナスのトレーニング、考え方をしてしまっているケースがあるんだよ。

それを、プラスに変える習慣を、クセをあせらずにつけていくんだ」

相田は、高山の目を見てうなづいた。

「 高山コーチ、すいません・・・」

3月の紅白戦の最中、トンネルのエラーをしたショートの中村が、ベンチに戻ってくるや否や

高山に帽子をとって謝った。

「中村君、俺に謝ることなんかないよ。

コーチにやらせれている野球じゃないぞ。

試合中にエラーの反省は、しなくていい。

試合中にエラーの反省会をするのは、おかしいぞ。

「反省は しなくていい?」

ショートの中村は、エラーからの心の中で切り替えができ、大きな声で返事をした。

高山の話は、聖橋二高野球部員に、スポンジの水をすうがごとく

吸収されていった。

聖橋二高の選手の気持ちが、昨年の夏や秋より、徐々に逞しいものになりつつあった。

 いよいよ、東京の春季大会の組み合わせが決まった。

春の球春とともに、聖橋二高野球部のあらたな挑戦がはじまっていた。

選手の心は、熱く燃えていた。

<つづく>

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